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『Mask of Sanity』 CDライナー解説(2)

広瀬和生/BURRN!

 ラインナップも安定して順調に活動を進めていたSINNERに再び転機が訪れたのは1997年のことだ。1994年にGAMMA RAYから脱退したラルフ・シーパースが、地元で昔なじみのトム・ナウマンに「一緒に何かやろう」と持ち掛け、その時、マット・シナーにも声を掛けた。これがPRIMAL FEARに発展することになるのである。彼ら3人はJUDAS PRIESTタイプの正統派メタルの楽曲をプレイするプロジェクトとして曲作りを進め、クラウス・シュペリングを加えて1997年8月からアルバム制作に突入、日本では1997年12月に、欧州では1998年2月にPRIMAL FEARのデビュー・アルバム「PRIMAL FEAR」がリリースされた。
 マットがベーシストとバック・ヴォーカルに専念してラルフがリード・ヴォーカルを担当するPRIMAL FEARは、ステファン・レイビングを加えた5人編成でパーマネントなバンドとしての活動を開始するが、SINNERの活動がなくなったわけではなく、前作と同じラインナップでの11thアルバム「THE NATURE OF EVIL」も1998年にリリースされている。だが、PRIMAL FEARはツアーで地盤を固めて1999年2月にニュー・アルバムの制作を開始、同年6月には2nd「JAWS OF DEATH」をリリース。その直後トム・ナウマンは健康上の理由でSINNERとPRIMAL FEAR両方から脱退したため、PRIMAL FEARのツアーにもSINNERのアレックス・バイロットが参加することになる。
 1999年、SAXONに加入するためフリッツ・ランドウがSINNERから脱退。SINNERは当時HELLOWEENのウリ・カッシュをゲスト・ドラマーに迎えて新作のレコーディングに入る。トム・ナウマンの後任に元THUNDERHEADのヘニー・ウォルターが迎えられたこの12thアルバム「THE END OF SANCTUARY」は2000年4月にリリースされることになるのだが、このアルバムに伴うツアーを終えた後、「アレックスはSINNERに専念、PRIMAL FEARにはアレックスの代わりにヘニーが加入する」という決定が下され、ステファンとヘニーのツイン・ギター編成によるPRIMAL FEARの3rdアルバム「NUCLEAR FIRE」は日本では2000年12月、欧州では2001年にリリースされる。
 PRIMAL FEARは折からの欧州での正統派メタル/メロディック・パワー・メタルの盛り上がりの中で支持を集め、順調な活動ぶりを示していく。となると、必然的にSINNERに費やされる時間が少なくなっていくのは仕方の無いことだろう。2001年に予定されていたSINNERのレコーディングは延期され、PRIMAL FEARはツアー後すぐさま4th「BLACK SUN」の制作に入り、同作は2002年にリリースされる。このSINNERが動かない時期にアレックス・バイロットは、D.C.クーパーと組んだSILENT FORCEの活動に本腰を入れ、SINNERからは事実上脱退する。SILENT FORCEは2000年に1stアルバムを出しており、2ndアルバムは2001年末にリリースされた。
 2002年にはトム・ナウマンの健康問題も解決して、彼がSINNERに復帰してトムとヘニーのツイン・ギターによるSINNERの13th「THERE WILL BE EXECUTION」(ここでフリッツ・ランドウもSINNERに復帰した)が2003年にリリースされると、ヘニーはSINNERに専念することになり、トム・ナウマンはPRIMAL FEARにも復帰した。その、トムが復帰したPRIMAL FEARは、ツアー中にドラマーが元ANNIHILATORのランディ・ブラックに交代し、5th「DEVIL'S GROUND」を2004年にリリース。欧州のプレスで絶賛された同アルバムは見事なセールスを記録し、PRIMAL FEARはシーンで確固たる地位を築く。そして2005年に最新作の6th「SEVEN SEALS」をリリースしたのである。
 …というわけで、ようやく本作に辿りつく。2006年後半、PRIMAL FEARの活動が一段落した時に、ようやくマットはSINNERの新作に取り組む時間を持つことが出来たのだ。マット自身、久々のSINNERの新作ということで「SINNERの魅力の総てを結集したアルバム」を作ることを目指したという今回の14th「MASK OF SANITY」は、まさにSINNERが放つ最高傑作である、と僕は思う。なお、今のSINNERのラインナップには、PRIMAL FEARを脱退しているクラウス・シュペリングが1年前から加わっており、また、トムとツイン・ギターを組んでいるのは新顔のクリストフ・レイム。実際のレコーディングでクリストフがプレイしたのは数曲だが、彼は正式メンバーとしてツアーにも参加する。
 その他、ゲスト・ミュージシャンとしてラルフ・シーパース、MYSTIC PROPHECYのマーティン・グリム、BRAINSTORMのアンディ・フランクらも本作に参加しており、“Baby Please Don'rt Go”ではトムとマーティンがツイン・ギター・ソロを披露している。この“Baby Please Don't Go”はTHIN LIZZYの「THUNDER AND LIGHTNING」(1983年)に収録されていたナンバー。このカヴァーは本作のヨーロッパ盤では初回限定盤のみ収録、日本盤のボーナス・トラックとなっている。
 なお、本作のブックレットには「In memory of my brother」と記されているが、マット・シナーにとって2006年は、長く離れていた子供達が戻ってきた幸福な年でもあった反面、高名な政治家であり勲章も持っていたという兄が心臓発作で亡くなるという悲しい年でもあったという。13歳の1人息子を残して逝った愛する兄にこの大切なアルバムを捧げたい…そんなマットの気持が、このコメントには込められている。
 高い人気を得ているPRIMAL FEARが長い休止期間を持つことはあり得ないわけで、事実2007年に入ると早々にPRIMAL FEARの新作のレコーディングに取り組むという話も伝わってきているが、マットによれば、今後はSINNERもあまり長い休止状態に陥らないように、活発に動いていくつもりだという。SINNERのファンにとっては嬉しい限りだ。何しろ、本作のように見事な作品を生み出せるのは、SINNERを置いて他にはないのだから。

日時: 2006年12月27日 17:00
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